ブルガダ症候群 BRUGADA SYNDROME

致死性不整脈 ブルガダ症候群
とは

ブルガダ症候群は、決して頻度が高い疾患ではありませんが、心臓の機能に問題がない場合でも致死性の不整脈を起こす疾患として知られています。スペインのブルガダ兄弟が、1992年に致死性の不整脈として症例を発見・発表したことで、のちにこの名称がつけられています。
心電図で見ると、右室誘導(V1-V3)のST上昇がありながらも心臓の器質的異常はなく、心室細動が起こったという内容でした。同様の心電図を有する症例で、心停止からの蘇生も報告されています。

ブルガダ症候群の症状

発作以外の症状はなく、日常的には特に問題ない生活を営むことができます。しかし、発作が起きた場合は失神するだけでなく、命を失うこともあります。特に注意を要するのは40~60歳くらいと報告されています。このような傾向があることから、元気だった人が突然亡くなる「ぽっくり病」の原因ともされています。

心電図所見

ブルガダ型心電図においては3つのタイプがあり、右側胸部誘導でのST上昇値などから分類されます(図1参照)。

  • ブルガダ型心電図タイプ1:2mm以上のST上昇を伴うcoved型
  • ブルガダ型心電図タイプ2:1mm以上のST上昇を伴うsaddleback型
  • ブルガダ型心電図タイプ3:1mm未満のST上昇を伴うsaddleback型

図1 ブルガダ型心電図

まず記載しておくべきことは、ブルガダ型心電図が認められればすべてブルガダ症候群と断定されるわけではないという点です。ブルガダ症候群の診断要素は以下の5項目があり、ひとつ以上に該当する必要があります。①多形性心室頻拍・心室細動の記録がある②家族の中に45歳以下で突然死した人がいる③患者の家族に典型的coved型(タイプ1)の心電図が見られる④心臓電気生理検査によって多形性心室頻拍・心室細動を誘発できる⑤夜間のあえぎ様呼吸(瀕死期呼吸)や失神が見られる。

ただし、タイプ2および3に分類されるsaddleback型では、薬物で典型的なタイプ1のcoved型になった症例のみを前述の基準に当てはめます。

タイプ 1のcoved型においては心室細動や失神、心房細動発症のリスクが高いことがわかっています。ただし、タイプ 2、3のブルガダ型心電図の場合でもタイプ1に変動することがあるので要注意です。

わが国では、心室細動や多形性心室頻拍、失神などが見られる症例を有症候性ブルガダ症候群と分類する一方、心室細動や多形性心室頻拍、失神などを認めないケースに関しては無症候性ブルガダ症候群と分類することが少なくありません。

疫学

アジア圏では比較的ブルガダ型心電図の報告が多く、日本も発症が多い地域として認識されています。タイプ1のブルガダ型心電図は日本の学童では2000人に1人程度ですが、成人であれば、1000人に1~3人程度と年齢が上がることで比率の上昇が見られます。一方、タイプ2に関しては、1000人に対して7人と平均値が上がりますし、男性に関しては47人に1人程度と報告されているので、珍しい疾患とは言えない側面があります。男性に多い要因はテストステロンという男性ホルモンが関係していると考えられています。この疾患による突然死は180~280人に1人程度です。
日本国内での循環器病委託研究によれば、心停止蘇生群や心室細動群の予後は良いとは言えませんでしたが、自覚症状を認めないグループの予後は良好なケースが多いとされています。

検査

ブルガダ症候群は日本においては、タイプ1のcoved型や、タイプ2、3のsaddleback型が検診時の心電図から発見されることがほとんどです。ただしブルガダ症候群の診断は心電図のみで行われるものではなく、いくつかの条件を確認することが重要です。
さらに、心電図は測定時ごとに変化するため、正常値として現れることもあります。そのため負荷試験を実施して波形の変化が増強されることや、タイプ2または3からタイプ1に変化することなどを確認し、さらに家族の状況などを踏まえたうえで診断に至ります。

薬物負荷試験

循環器専門施設で行われる薬物負荷試験にはVaugham Williams分類Ia群並びにIc群のNaチャネル遮断薬が使用されます。薬剤の具体名は、フレカイニド(タンボコール)、プロカインアミド(アミサリン)、ピルジカイニド(サンリズム)などです。その後STの上昇具合や波形の変化を踏まえ、coved型のST上昇に変化した症例において陽性と診断します。

負荷試験が適用される症例

負荷試験を適用するのは、原因が特定できない失神やあえぎ呼吸(夜間瀕死呼吸)の既往例のほか、心肺停止の背聖隷などです。また、心電図のST波形に異常がないか、saddleback型でST上昇がみられる場合です。負荷試験で陽性であれば、植え込み型除細動器を使った治療を行います。

自覚症状がなく、心臓突然死やブルガダ症候群の家族歴を有する症例

saddleback型ST上昇のみが見られる場合や、ST波形が正常な場合でも、薬物負荷試験で陽性であればブルガダ症候群の可能性を踏まえて、心臓電気生理検査を行ったうえで治療プランを作成します。

自覚症状もなく、心臓突然死やブルガダ症候群の家族歴を認めず、saddleback型ST上昇のみを示す症例

薬物負荷試験で陽性の結果が出ればブルガダ症候群を疑いますが、予後は良好であることが多いケースです。異なる負荷試験や心臓生理学的検査、加算平均心電図などを踏まえてトータル的な判断を行うべき症例です。

上記のような薬物負荷試験は、心室細動や多形性心室頻拍のリスクを伴うものです。そのため、不整脈専門医が在籍する医療機関で、十分な管理体制を持って行われます。
当クリニックにおいては、一般的な心電図検査のほか、1~2肋間上の高位肋間で心電図測定を行い、saddleback型からcoved型への変動やST上昇の増強などを確認します。

加算平均心電図(signal-averaging electrocardiography:SAECG)

有症候性ブルガダ症候群の患者様に対して、加算平均心電図(signal-averaging electrocardiography:SAECG)を使うと、多くの場合、心室遅延電位の検出が見られます。不整脈と心室遅延電位の関連性を明示する報告もあります。また追跡研究にて、このような心室遅延電位の有用性も示されています。(当クリニックでは加算平均心電図は実施しておりません)

心臓電気生理学的検査

心臓電気生理学的検査は、不整脈に関連する最終的な診断として重視されています。ブルガダ症候群の症例において心臓電気生理学的検査を行うのは、心室プログラム刺激試験による発作の誘発です。

心臓電気生理学的検査の適応

  • 薬剤負荷試験後も含めてcoved型(タイプ1)のブルガダ型心電図が見られ、心室細動や多形性心室頻拍が確認されず、めまいや失神、動悸などの症状を有する場合。または、薬剤負荷試験後も含めてcoved型(タイプ1)のブルガダ型心電図が見られ、心室細動や多形性心室頻拍、めまいや失神、動悸などの症状が確認されていないが、家族に若年から中年で突然死した例がある場合。
  • saddle back型(タイプ2、3)のブルガダ型心電図が見られ、心室細動や多形性心室頻拍が確認されず、めまいや失神、動悸などの症状を有する場合。または、薬剤負荷試験後も含めてsaddle back型(タイプ2、3)のブルガダ型心電図が見られ、心室細動や多形性心室頻拍、めまいや失神、動悸などの症状が確認されていないが、家族に若年から中年で突然死した例がある場合。
  • coved型またはsaddle back型(タイプ1~3)のブルガダ型心電図が見られ、心室細動や多形性心室頻拍、めまいや失神、動悸などの症状が確認されておらず、家族に若年から中年で突然死した例も無いが、心室細動や多形性心室頻拍が確認されている場合は、心臓電気生理学的検査の実施には検討を要します。

ブルガダ症候群においては遺伝子異常が報告されていることもあって、家族歴の確認が重視されています。
ブルガダ症候群患者の約2割においては、Na+チャネルαサブユニットコードするSCNA5Aの変異が報告されていますし、それ以外の遺伝子変異も見られます。ブルガダ症候群の原因遺伝子に関しては、今後も研究が進むことが待たれています。

治療

植込み型除細動器(ICD)は、ブルガダ症候群の突然死を予防する治療として唯一確立されています。
ブルガダ型心電図のタイプ1~3のどの症例に対しても適用可能で、自然停止する多形性心室頻拍や心停止蘇生例、心室細動が見られる場合に使用します。
また、coved型(タイプ1)で、薬剤負荷、1肋間上の心電図記録も見られたケースで、以下の3点のうち2点に該当する例では使用を推奨します。一方1点のみにしか該当しない場合は検討を要します。 ①過去に失神がある ②家族に突然死が見られる ③心臓電気生理学的検査で心室細動の誘発が見られた植え込み型除細動器(ICD)の植え込みは直ちに行うことは難しく、植え込み実施までは薬物療法が実施されることが一般的です。さらに、植え込みを行った後にも作動が頻発するようであれば、薬剤による発作予防を併用します。急性期であれば、心房細動を防ぐために、β作動薬(イソプロテレノール)の持続点滴が行われることが多いですし、慢性期であれば、ベプリジルやキニジン、シロスタゾールなどの内服薬を処方します。

健診心電図自験例

健診(当院並びに他施設)で偶然に発見された、ブルガダ型心電図を示します。図2は44歳男性です。V1誘導でブルガダ型心電図タイプ1を認めました(図2a)。胸部誘導を、通常より1肋間上での記録では(図2b)、V1V2誘導でのcoved型が顕性化し、V3誘導でsaddleback型ST上昇を認めております。
図3は33歳男性で、ブルガダ型心電図タイプ2を認めました(図3a)。胸部誘導を通常より1肋間あげて記録した心電図(図3b)ではV1V2誘導でcoved型ST上昇へ、V3誘導でsaddleback型ST上昇を認めております。いずれの方も特に失神等の自覚症状や、突然死の家族歴は認めず経過観察としています。
ブルガダ症候群は、30~50歳代の働き盛りの男性に突然死の危険があり、社会的な損失になります。健診等でブルガダ型心電図と診断されても、失神等の自症状がない場合は、不安にならずに定期的に循環器専門医への受診をお勧めします。また危険な不整脈を見逃さないためにも、1年に1度は心電図検査を含めて、健診を受診することをお勧めします。

  • 図2 a

  • 図2 b

  • 図3 a

  • 図3 b

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