心房細動 ATRIAL FIBRILLATION

心房細動とは

心房細動は不整脈の一種で、心臓内の心房が痙攣して機能を果たさなくなる疾患です。問題ない状態であれば、心房は洞結節という部位から電気信号を受け取って、毎分50~100回程度の動作を行います。一方心房細動は、洞結節以外からも電気信号が出ることで振動回数が大幅に増加して、心臓のポンプ機能が低下します。このため、本来行われるべき心臓の収縮や拡張ができなくなり、さまざまな弊害につながるのです。

心房細動の症状

心房細動が起こると脈拍が増加しますし、脈のリズムもバラバラになります。そのため、動悸や胸の不快感、脱力感やめまいを覚えます。さらに心房の収縮が無くなると、血液の循環ができなくなるので、吐き気や息切れが起こり、意識が遠くなるケースも見られます。また、自覚症状が無い心房細動もあるので、症状だけで判断できない場合もあります。
心房細動を放置すると、心不全を起こすリスクが高いですし、脳梗塞にいたる可能性もあります。

疫学

心房細動そのもので、死に至る不整脈ではありませんが、生活の質を大きく低下させる、脳血栓塞栓症(梗塞)の原因になります。
40歳以上の定期健診を基に、2003年に日本循環器学会が行った疫学調査では、年齢が上がるにつれ、心房細動が発症しやすいことが判明しました。また70歳代であれば女性が約1.1%であるのに対して、男性では約3.4%、80歳以上の場合女性は約2.2%で男性は約4.4%と、男性の発症が高いことも報告されています。我が国では高齢化が進行しており、今後も患者数の増加が推測されます。

心房細動の分類

  • 発作性心房細動…7日以内に自然に治まるもの
  • 持続性心房細動…7日を超えても自然に治まらず、薬剤や電気ショックで除細動するもの
  • 長期持続性心房細動…1年以上持続するが、永続性心房細動と異なり、電気的除細動やカテーテルアブレーション治療により洞調律への回復を考慮できるもの
  • 永続性心房細動…薬剤や電気ショックで除細動ができないもの

持続性心房細動、長期持続性心房細動、永続性心房細動を慢性心房細動とも呼ばれます。また発作性であったものも時間と共に慢性化していくことがあります。慢性化すると回復しにくいので、早めに当クリニックにご相談ください。

心房細動の原因

心房細動の原因は多数存在していますが、代表的なのは高血圧と加齢の影響です。ほかには狭心症や心臓弁膜症、拡張型心筋症や虚血性心疾患など、心臓疾患の経験がある人、甲状腺機能亢進症や肺の慢性疾患がある人にも見られます。また、これらの疾患が無くても睡眠不足や精神的なストレスが多い人、カフェインやアルコールの摂取量が多い人、生活リズムが不規則な人はリスクが高いとされています。

心房細動発症の危険因子

心房細動の危険因子として代表的なものは、高血圧症、糖尿病、肥満、睡眠障害、尿酸、喫煙、アルコール消費量の増加があげられます。
特に男性では飲酒した夜に心房細動を発症する例も多いようです。さらに高身長も危険因子となり、男性に比べ心房細動発症が少ないとされてきた女性でも、高身長の女性に関しては心房細動発症の危険性が高いとの海外での報告があります。

心房細動の合併症

心房細動は自覚できない例も多く、軽い不整脈と認識されることもあります。気づかないまま時間が経つこともあり、48時間以上継続すると心房の内部に血栓ができるリスクが上がります。特に問題となるのは、左心房にできた血栓がはがれたときで、血管を通って血栓が脳に達すると、脳動脈の閉塞が起こって脳梗塞となることがあります。心房細動がある人は、無い人と比較して脳梗塞のリスクが5倍にも達するというデータもあるので、その違いは顕著です。

心房細動による脳梗塞

脳梗塞が起こる要因の30%程度は心房細動だと確認されています。また、動脈硬化に起因する脳梗塞に比べると、心房細動由来の脳梗塞は重篤化しやすいと言われており、死亡率も高いことがわかっています。これはほかの脳梗塞よりも、心房細動由来の脳梗塞が、比較的太い脳動脈で起こりやすいからです。このため四肢の麻痺を伴う例や、言語障害にいたることも多く、最悪の場合は死に至ってしまうのです。
また、福岡県で行われた研究では、心房細動に由来する脳梗塞発症者は、動脈硬化由来の脳梗塞発症者に比べると5年生存率が低いと報告されています。このため、心房細動を放置しないことが重要ですが、自覚症状が無い場合も多いので、当クリニックは定期的な検査をおすすめしています。

心房細動の検査

  1. Flow01

    検脈、
    12誘導心電図(体表面心電図)

    まずは左右橈骨動脈の脈を測定します。脈の不整を認めたら、心房細動の有無を確認するため12誘導心電図を検査します。発作性でも持続性でも7日以上経て治まっている場合には心電図検査上は陰性と判断されます。これを踏まえて、動悸などの自覚症状がある場合は、24時間継続測定できるホルター心電図検査を推奨しています。

  2. Flow02

    ホルター心電図
    (24時間持続心電図)検査

    ホルター心電図検査は24時間の心臓の動きを確認できるので、動悸などの自覚症状があった時間と波形の変化の関係性を追うことができます。また、治療開始後は、心房細動が起こっている時間を確認することで、治療効果の有無を見ることも可能です。

  3. Flow03

    心エコー検査(心臓超音波検査)

    心臓内の心房や心室を断面図として確認することで、血流量や拡大が起こっているかの確認ができます。
    またモヤモヤと煙がかかったような状態であれば血流がよどんでいると判断できますし、弁膜症の有無も評価できます。なお、心エコー検査は当クリニック内で受けることが可能です。

  4. Flow04

    電気生理学検査並びにカテーテルアブレーション

    心房細動が診断され、電気的除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合、不整脈専門施設へ紹介致します。電気生理学検査は不整脈専門医が頸部や鼠径部の静脈から電極カテーテルを心臓内に挿入して、内部の電気信号を確認します。また電気的刺激を加え心房細動の誘発や、異常興奮部位の特定も可能です。通常は検査に引き続きカテーテルアブレーションという治療を行います。

心房細動の治療

1) 抗凝固療法

心房細動は心原性脳塞栓症(梗塞)の原因となり、麻痺等の重篤な状態となることがあります。抗凝固薬を用いて心原性脳塞栓症の予防を行います。この治療により、心臓内や血管で血栓をできにくくし、脳塞栓症(梗塞)の発症に至ることを防止するのです。薬剤ごとに特徴があり、丁寧な説明を行い導入しております。

ワーファリン

ワーファリンは長年抗凝固薬として用いられてきた実績のある薬剤です。脳血栓塞栓症(梗塞)の発症を6割以上抑えることが明らかになっていますが、治療域が狭いことや、毎回血液検査が必要となること難点もあります。また治療開始から効果までの時間が長く、頭蓋内出血の原因となること、飲食物や他の薬剤の影響を受けやすいなど注意点が多い薬剤です。さらにワーファリンを内服している期間中は、ビタミンKを多く含む飲食物(クロレラや納豆、青汁など)を控える必要もあります。このように注意点が多いことから、近年は直接作用型経口凝固薬(DOAC)の使用が増えてきています。

直接作用型経口凝固薬(DOAC)

DOACの特徴

  • 2~3時間で作用が見られる
  • 頭蓋内出血のリスクが少ない
  • 頻回の血液検査を必要としない
  • 作用が続く時間が短い
  • 飲食物やほかの薬剤に影響を受けにくい

現在4種類のDOACがあります。DOACによっては多少異なりますが、代謝物が腎排泄性のものがあり、腎機能障害のある患者様には容量調節が必要となります。DOAC内服中に出血を認めることもありますが、中和剤が開発され使用されております。DOACはワーファリンに比べ重篤な脳出血の危険性は少ないものの、下部消化管出血の危険性が上がります。

2) 薬物療法

心房細動が判明して症状がある場合は、まず薬物療法がおこなわれます。薬物療法はレートコントロールとリズムコントロールの2種類に分類され、年齢や状態を踏まえてどちらかを選択します。

レートコントロール (rate control)

薬剤の作用によって心拍数をコントロールして、自覚症状を減らす治療です。具体的には、房室結節の伝導を抑える薬剤が用いられます。症状を早く軽減したい場合は、カルシウムチャネル遮断剤やジギタリスなどを静脈注射で使用します。また、ジルチアゼムやジゴキシン、β遮断剤やベラパミルなどの経口薬もあります。これらは、心房細動にWPW症候群が合併している場合には使用できないので注意が必要です。

リズムコントロール (rhythm control)

心拍のリズムをコントロールして除細動し、洞調律(正常の脈拍)を得る治療方法です。除細動に当たっては、抗不整脈薬の内服、または静脈注射、他には直流除細動(電気ショック)が有効です。ただし、直流除細動は薬剤が効かない場合や心機能の低下がみられる場合、早急に除細動を行いたい場合の手段です。薬物療法については、完治を目指すものではないこと、洞調律維持に抗不整脈薬の服用を続けなければならないこと、何らかの副作用を有することなどの注意点があります。また、抗不整脈薬の中には心機能低下や肝機能、腎機能への悪影響も考慮しなければならないものもあるので、処方には注意を要します。

3) 非薬物療法

心房細動は薬物療法では完治できないので、非薬物療法も治療の候補になります。最近非薬物療法の主流になっているのがカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)です。他に心臓外科手術(メイズ手術)、ペースメーカー治療があります。

1. カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)

心臓生理検査により心房細動と診断がついた場合、引き続きカテーテルアブレーション治療を行います。焼灼用のカテーテルを心臓内に挿入し、高周波で焼灼または冷凍凝固を行い、心筋の興奮部位や肺動脈と左心房を隔離(絶縁)することで、異常な興奮が心房に伝導されなくなります。頻脈性心房細動の多くは肺静脈で起こる異常な興奮(期外収縮)が原因と考えられており、肺静脈と左心房とを隔離(絶縁)することで異常な興奮の伝導をなくすことで心房細動の発症を抑制します。左心房拡大がなく、左心機能低下が高度でなく重度な肺疾患がなく、薬物抵抗性で自覚症状のある患者様に適用されます。
なお慢性心房細動においては1回のカテーテルアブレーションで完治することは難しく、複数回のカテーテルアブレーションを要するケースが見られます。

2. 心臓外科治療(メイズ手術)

心房の筋肉を高周波や冷凍凝固によりカテーテルアブレーションやメスで切開・縫合し不整脈の回路を断つことで状態を改善します。「メイズ」とは迷路のことで、切開と縫合によって不整脈の経路が途絶されることから来ています。開胸手術を必要とするので、心臓弁膜症の手術と並行して行うことが一般的です

3. ペースメーカー治療

心房細動と徐脈性不整脈が合併している患者様に対して行われます。ペースメーカーも複数の種類がありますが、心房細動の発症予防には生理的ペースメーカ(AAI(R)やDDD(R))が効果的ですが、徐脈頻脈性の慢性心房細動であれば、VVI(R)というタイプが選択されます。
日本では高齢化が急速に進行しているので、加齢に伴って増加する心房細動の患者数も増加傾向にあります。心房細動は症状が乏しく、自覚できない患者様も多く、放置している患者様もいます。当クリニックでは毎年1回は心電図検査を受けることをお勧めしております。また毎年特定健診などを受けて、心房細動だけではなく生活習慣病の早期発見に努めることも重要です。脳血栓塞栓症(梗塞)のリスクはCHADS2スコアによって脳血栓塞栓症(梗塞)のリスク評価として用いられます。下記に表を記載しましたのでご参照ください。

CHADS₂スコア 脳卒中リスク 脳卒中発症
0 1.0%/年
1 低~中 1.5%/年
2 2.5%/年
3 5.0%/年
≧4 非常に高 >7.0%/年

CHADS₂スコア:CHF(心不全)、HT(高血圧)、Age>75y(高齢)、DM(糖尿病)は、それぞれ1点、Stroke/TIA(脳卒中/TIA)は2点に計算され、CHADS2スコア合計1点以上でDOAC内服が推奨されます。

日常生活の中に適切な運動を取り入れることで、心房細動だけでなく、糖尿病やがん、認知症などの発症を抑えることができます。また、魚類に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)の接種も心房細動の予防に有効であるとのデータもあります。ぜひこの機会に日常の食生活や運動量を見直して、心房細動をはじめとする疾患を予防していきましょう。(ただし、心臓疾患などがある場合は運動療法の導入は主治医と相談して行ってください)
また、定期的に心電図などの検査を受けて心房細動などの問題を早期発見することも、健康に楽しく生きていくことに貢献します。検査の内容を知りたい方はお気軽にご相談ください。

発作性心房細動自験例

72歳女性、動悸、息切れで受診されました。受診時の心電図(図1)を示します。脈拍149拍/分の頻拍性心房細動、完全右脚ブロック、QTc=0.413秒を認めました。フレカイニド100mgとベラパミル60mg、アピキサバン5mgの内服治療を開始しました。ホルター心電図検査で同日15:47に洞調律へ除細動されています(図2)。
その後も発作性心房細動の再発は認めませんでしたが、QT間隔の延長(図3)と下腿に発疹を認めました。フレカイニドによるQT間隔の延長、薬疹と診断し、フレカイニドを中止し、カテーテルアブレーションの方針としました。カテーテルアブレーション後、QT間隔延長も消失し、抗不整脈や抗凝固薬も中止となりました。1年後の心電図検査(図4)、ホルター心電図検査でも再発なく経過しています。

  • 図1

  • 図2

  • 図3

  • 図4

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